日本の伝統文化の一つである武道。 かつての武士たちが修得したさまざまな武術をルーツとして、近代以降に競技としての側面も取り入れながら発展してきました。

そんな武道のうち、武士の表芸とも呼ばれた剣術を源流として形成されてきたのが「剣道」です。

数ある武道のなかでもとてもポピュラーで、学校体育などで経験した人も多いでしょう。

剣道は他のスポーツや武道と比べて怪我が少ない

己の肉体を鍛え上げ、研ぎ澄ませて取り組むスポーツや武道では、時に怪我を伴うことが珍しくありません。

競技によっては相手と激しくコンタクトするものやコントロールを失うと大事故になるものもあり、最悪の場合には選手生命が絶たれる事態を招くこともあります。

いわゆるスポーツ障害はそれぞれの競技に特有の傾向があり、いかに怪我をしないように練習や鍛錬を積むかということは大きな課題の一つです。

そんななかで、直接打突し合う武道である剣道は比較的怪我が少ないといわれています。

攻防を伴う武道のなかではもっとも安全と例えられることもあり、外見上の激しさから受けるイメージとは異なる部分があるようです。

剣道の安全性を支える3つの要素

剣道が怪我の少ない安全な武道であることの理由は、大きく分けて3つの要素が根拠になっています。

1.防具を身に着けていること


まず、剣道は稽古や試合において防具を身に着けていることが、怪我の少ない武道たらしめている大きな理由の一つです。

剣道の防具は面・籠手・胴・垂れの4種類で構成されており、頭部・喉・肩・拳・前腕部・胸・胴・腰周り・腿を覆います。

剣道の有効打突部位は垂れ以外のメン・コテ・ドウ・ツキで、攻撃は防具を身に着けている部分に限られることから素肌への直接的なダメージは軽減されます。

例えばボクシングなどのように直接打撃する格闘技では肉体への負荷が大きく、怪我をする確率も自然に高くなりますが、剣道は防具のおかげでそうした危険性が比較的低くなるといえるでしょう。

もちろん時には防具の隙間や守られていない部位に竹刀が当たることもありますが、このようなプロテクターの有無は怪我の確率を大きく左右すると考えられます。

また、防具自体にも打突を受けた際に衝撃を吸収するためのさまざまな工夫が施されており、力任せに叩かれない限りは強い痛みを感じることもありません。

剣道の稽古や試合での危険な事故として後ろ向きに転倒する事態が挙げられますが、防具の面は後頭部よりはみ出すサイズが適正で、この部分がクッションとなって転倒時に頭を守るようになっています。

いずれも100%怪我を防げる性質のものではありませんが、防具は剣道の安全性の高さを担保する重要なファクターであるといえるでしょう。

2.竹刀という道具の特性


剣道の安全性について2つめの根拠は、竹刀という道具の持つ特性です。

刀剣の代用としてこれをもって打突し合うもので、剣道を象徴する道具の一つとして真剣同様に大切に扱うべきものとされています。

竹刀は読んで字のごとく竹を素材として作られますが、現代ではカーボンなどの人工物を用いたものも出回っています。

竹刀は分解すると縦長の4本の竹材でできていることが分かり、これを組み合わせて弦や皮革で固定し、中空の棒状にまとめることが特徴です。

竹刀の語源は「しなる」「しなう」であるとされ、その名の通りに打突すると素材の弾力で大きくしなる性質を持っています。

このことと内部が空洞になった構造によって、打突の衝撃をうまく分散させることから打たれた側も大きなダメージを受けずに済んでいます。

いかに防具を身にまとっていても、例えば木刀のようなもので思い切り叩かれては大怪我をしてしまうでしょう。

しかし竹刀の持つ特殊な性質により、衝撃は伝えつつも肉体を損傷させないバランスを実現しているといえます。

3.ルールで守られていること


3つめの根拠は、剣道の競技武道として定められたルールで守られていることが挙げられます。

例えば防具で守られていない部位を故意に打突することは禁止されており、したがって垂れ以外の防具の上から打つ・突くことが中心となります。

このことは肉体への直接的なダメージを軽減し、怪我を少なくすることに寄与しているといえるでしょう。

また剣道の有効打突部位の一つとして「ツキ」を挙げましたが、この技は危険性が高いことから中学生以下では禁じ手となっています。

ルールで禁じることによって身体が出来上がる前の年齢層で、稽古中あるいは試合中の怪我を防ぐよう配慮されています。

さらに剣道では「体当たり」という正式な技があり、これは文字通り正面から相手に体をぶつけるもので打突以外に認められた唯一の体術です。

体当たりによって一本を取ることはできませんが、場外に2回出ると反則一本となるため、効果的に相手を押し出すために使われることもある技です。

しかし相手を場外に出すためだけにみだりにこれを用いることも禁じられており、仮に無理やり押し出そうともみ合いになった場合には審判がストップをかけるのが普通です。

ともすれば無理に押し出そうとした側が反則を取られることもあり、結果として危険な体当たりの多用を避ける効果が生まれます。

このように剣道はそのルールによって、怪我が少な安全な武道といわれる要素を高めている面が認められます。

正しい稽古法や適切な取り組み方で怪我は防げる

剣道が他のスポーツや武道に比べて怪我が少ないといわれることについて、3つの根拠を挙げて解説しました。

剣道は安全に対するさまざまな工夫が施されていることが理解されますが、それでも怪我や事故はゼロではありません。

ですが道具の特性やルールの遵守だけではなく、普段から正しい稽古法や適切な取り組み方を心がけることで、さらに安全性を高めることは可能です。

生涯武道ともいわれ幼少から高齢まで幅広い年代で愛好されている剣道を、安全で怪我のないように楽しみましょう。

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