格闘技や武術をルーツに持つ競技は世界中にありますが、日本の武道は「掛け声」を多用する点で独特といわれることがあります。

なかでも剣道はさまざまな掛け声を使い分け、打突時には「メン」や「ドウ」と発声することが知られています。

実は数ある武道のうちでもこのように打突する部位の名前、あるいは技名ともいえるものを叫ぶのは珍しい部類です。

このように大きな声を出す剣道はストレス解消の効果もあるとされ、呼吸による心肺機能の向上なども認められます。

さまざまな発声を伴う剣道

剣道ではさまざまなシーンでいくつかの発声を行いますが、そもそもすべての武道が常に声を出すわけではありません。

例えば相撲は基本的に無声であるものの、立ち合いでぶつかった時や押し出す際に気合の声が漏れ出ることはままあります。

また居合道も声を出さない場合が多いですが、流派によっては斬る時突くときに大きく発生する技もあります。

柔道でも互いに気合を掛けあうことがありますし、空手道も攻撃の瞬間に発声するケースがあるなど、武道の動作と声とは密接な関係があります。

そのなかでも剣道は頻繁に気合の声を出し、打突には必ず発声を伴うことからもっとも多く声を出す武道といっても過言ではないでしょう。

剣道ではなぜ声を出す?

普段の稽古でも試合でも大きな声を出す剣道はストレス解消にも大きな効果がありますが、そもそもなぜ声を出すのでしょうか。

全日本剣道連盟の『剣道指導要領』によると、「掛け声とは、心に油断がなく、気力が充実した状態が、自然に声となって外にあらわれたもの」と説明しています。

掛け声そのものは発することがルールで定められているわけではありませんが、戦う上でとても重要な取り組みの一つです。

一方で打突の際は「気剣体」の一致が求められ、適切な発声を伴わないと一本にならないという条件もあります。

そのため剣道では声を出すことがごく自然に行われる土壌があるともいえるでしょう。

剣道の発声の種類とは?

それでは剣道の発声には具体的にどのようなものがあるのか、その種類を見てみましょう。

以下に代表的な3つのシチュエーションを挙げ、それぞれについて深掘りを試みました。

1.打突時の発声


剣道では打突の際にその部位名を発声することがよく知られ、これは試合においても一本として認められるための条件にもなっています。

発声は「メン」「コテ」「ドウ」「ツキ」の4種で、各打突箇所と異なる部位名を叫ぶのは禁じられています。

剣道ではなぜこのように打突部位名、したがって技名を発声するようになったのかには諸説ありますが、一つには明治初期に流行した「撃剣興行(げっけんこうぎょう)」の影響があると考えられています。

これは明治維新で身分と職を失った旧武士たちの救済措置の一環として考案されたもので、剣術など武術の試合を有料で観戦させる、いわゆるショービジネスのようなものでした。

しかし練達者同士の立ち合いは太刀捌きも高速で、観客にはどのように勝敗が決まったのかわかりにくい面があったようです。

そこでメンやドウなど、どこを打ったのかを発声することでよりわかりやすいようにしたものともいわれています。

2.立ち合い時の発声


稽古でも試合でも、相手と対峙する立ち合いのさなかでは激しく発声して気合をかけあうシーンがよく見られます。

しかし先にも述べたように実はこの時の発声はルールで定められているわけではなく、自然に気力が声となって発露したものという位置付けです。

むしろ剣道では修行が進むと徐々に「無声」へと至るものとされ、立ち合い時の発声は特に初級〜中級者の段階で重要視されているといえるでしょう。

後述するように発声にはさまざまな効果があり、呼吸法とも直結する技術であることからまずは大きな声をしっかり出すことが修行の基本です。

3.剣道形での発声


剣道で竹刀による稽古とともに行われるのが、「日本剣道形」と呼ばれる形稽古です。

木刀を用いて寸止めで行う形で、決められた攻防の動作のなかでより緊迫感をもって実施することが重要です。

そんな剣道形は、指導的立場とされる打太刀が「ヤー」、対する仕太刀は「トー」と発声します。

この発声の由来は定かではありませんが、剣道形の源流は各古流剣術流派にも属する昔の先生方が工夫して作られました。

古流剣術では独特の掛け声を発する流派もあり、剣道形では統一の発声として「ヤー」「トー」が定められ、現代にまで受け継がれています。

剣道で声を出すことにはどんな効果がある?

次に剣道で声を出すことにはどのような効果があるのか、具体的な作用を見ていきましょう。

細かい点を挙げるとさらに多くのメリットがありますが、こきでは代表的な3例をピックアップしました。

1.気力を高める

発声することで己の心を鼓舞し、気力を高めるという効果を得られます。

ここでいう気力とは精神的なモチベーションアップという意味に留まらず、声を出すことで適切に呼吸を繰り返して興奮状態を抑える作用も示しています。

気持ちを強く持って冷静に戦うという意味でも、剣道で大きな声を出すことには重要なメリットがあります。

2.集中力が増す

前項で述べたこととも関連していますが、発声によって集中力をアップさせることが可能です。

相手と自分という一対一の状況で攻防を繰り返す剣道では、掛け声を織り交ぜて自身のペースをつくることが重要となります。

そのため高い集中力を維持することは大きなアドバンテージになるのです。

3.相手を威圧する

大きな掛け声で気合をかけることは、相手を威圧する効果もあります。

動物の吠える声に代表されるように原始的な効果ですが、気持ちを強く持つことが重要な剣道では明暗を分ける要素の一つといえるでしょう。

相手を怯ませるほどの発声は、大きな武器となり得ます。

剣道の大きな発声でストレスも解消

剣道で大きな声を出す理由と、発声の具体的な種類や効果について解説しました。

ただ単純に声を出すだけではすぐに喉がかれてしまうため、腹の底から発声する工夫が必要です。

剣道のように大きな掛け声を出せる武道はストレス解消の効果もあり、稽古を終えると清々しい気分になれることでしょう。



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